油味噌のおにぎりとバックパッカーの涙
伊平屋島上陸2日目の朝、俺は宿を変えることにした。松金旅館さんは居心地の良い宿だった。かなり迷った。
だったらなぜ?
何があったのか
俺の他に数名の一人旅の客がいたようだが、残念なことに交流は一切なかった。まるでどこかのアパートに住んでいるかのごとく、それぞれの旅人が自分の部屋で自分の時間を過ごしていた。それは決して悪いことではないのだが、ゆんたくをはじめ、旅人同士の交流を求める俺には物足りなかった。
俺は飛び込みで2泊したい旨を告げていた。これが事前に予約していたのならドタキャンと同じことになる。許されない行為だ。通常ならキャンセル料を支払わなくちゃならん。とはいえ、伊平屋島まで来て都会のアパートに住んでいるような過ごし方は耐えられなかった。
恐る恐る女将さんに宿を発ちたいと申し出たところ、これが意外にもあっさりと快諾されたではないか。
胸が痛む。
宿にしてみれば突然の飛び込み客はプラスアルファの売り上げだ。それが無くなったところで予定(計画)から失うものはない。という考えは勝手な免罪符だろうな。
荷物をまとめ、新館の窓口で清算をして宿を発とうとした俺を女将さんが引きとめた。女将さんはそのまま厨房へ行ってしまった。しばし待つ俺。しばらくして女将さんが戻ってきた。
女将さん:これを持って行きなさい。
手渡されたのはおにぎりだった。
突然飛び込んできた客が勝手なことを言って宿を出て行く。部屋は離れだったから女将さんをはじめ、宿のスタッフとの交流もなかった。
おにぎりの具は油味噌だった。
とても美味い油味噌のおにぎりだった。
涙がこぼれそうになった。
俺ってバカだけど猿だけど汚いバックパッカーだけど、こうして島を旅することができてホントに幸せだと思った。
伊平屋島の旅は忘れられない旅になった。
俺の人生で最高のおにぎりは松金旅館の女将さんが握ってくれたおにぎりである